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診療科・部門

コラム①「亜鉛について」


亜鉛とは

皆さん、「亜鉛って何?」って聞かれたら、なんと答えますか?
中には、全くイメージのわかないかたもいらっしゃるのではないでしょうか?
実は、「亜鉛」は体にとって、非常に大事なものです。
「亜鉛」は採血検査で測定できますが、血液中の亜鉛の値をいい状態にすると、様々な健康上のメリットがあります。
今回は、病院のコラムで、数回にわたり亜鉛のお話をして、皆さんに亜鉛について興味を持ってもらおうと考えています。
「亜鉛」
亜鉛は英語でZincといい、原子番号30の金属元素で、分子量65.38です。鉄のさびを防ぐメッキとして、ガードレール・トタン屋根・自動車のボディなどに使用されます。また、銅など他の金属との合金は、仏像・楽器(トランペット等)五円玉等に使用され、白色の顔料としても使用されています。このように、産業界では「亜鉛」は極めて重要な役割を果たしています。

(図1)

「人体における亜鉛の働き」
私たちの体の中にわずか2gほどしか存在しない「亜鉛」ですが、「必須微量元素」といって、生体の維持に必要なものです。さらに、自力で体内で作り出することができないため、毎日の摂取が必要です。実は「亜鉛」は300種類以上の酵素の働きに関わる、まさに「代謝の司令塔」とも呼べる重要なミネラルです。その多彩な働きを、いくつかの主要な役割に分けて整理してみましょう。(図1)

1. 「細胞の生まれ変わり」を支える

亜鉛の最も根本的な役割は、DNAの合成やタンパク質の組み立てをサポートすることです。細胞分裂が盛んな部位ほど、亜鉛を必要とします。
  • 美肌・美髪の維持: 肌のターンオーバーを促し、コラーゲンの合成を助けます。
  • 傷の修復: 怪我をした際に新しい組織を作るプロセスに不可欠です。

2. 「味覚」を正常に保つ

舌の表面にある「味蕾(みらい)」という味を感じるセンサーは、非常に短いサイクルで新しく作り替えられています。亜鉛が不足するとこの再生が追いつかなくなるため、味が分かりにくくなる「味覚障害」の原因となります。

3. 「免疫力」の司令官

亜鉛は、体内に侵入したウイルスや細菌と戦う「白血球」の働きを活性化させます。
  • 粘膜の健康を保ち、ウイルスが侵入しにくいバリアを作ります。
  • コロナ感染にかかりづらくなり、重症化しないという報告や、風邪の初期に亜鉛を摂取すると、期間を短縮できるという報告もあります。

4. 「ホルモンと生殖機能」の調整

性ホルモンの合成や分泌、精子の形成に深く関わっており、男女問わず健康な生殖機能を維持するために欠かせません。また、血糖値を下げるホルモンである「インスリン」を膵臓で合成・放出し、血糖の調節にも関与しています。

5. 心の安定と脳の働き

脳内の神経伝達物質の合成に関与しており、記憶力の維持や感情のコントロールを助けます。

6. 成長

骨格の発育や、小児の成長にも関わっています。
―――――――――――――――――――――――
このように「亜鉛」は多彩な機能を持った物質です。

亜鉛欠乏症の診断について

(図2)

「亜鉛」が足りなくて、それにより症状が出ている状態が、「亜鉛欠乏症」といいます。「亜鉛欠乏症」の診断は、亜鉛欠乏症状の有無と、採血検査(血清亜鉛値)で行います。

「亜鉛欠乏症の症状」(図2)
味がわからない・食欲がない・皮膚炎・脱毛・関節が痛い・身長の伸びが悪い・貧血・口内炎・元気がない といった症状が「図2」に記載されています。亜鉛が不足すると、全身のいたるところにさまざまな症状が現れます。もう少し詳しくこれらの症状について説明します。

興味のある方はこちらもご覧ください

味がわからない・口内炎

味覚障害といって、亜鉛欠乏症のもっとも代表的な症状です。舌の上にある「味を感じる細胞(味蕾)」は生まれ変わるサイクルが非常に早いため、細胞づくりを助ける亜鉛が足りなくなると、味覚障害を発症します。実は、一口に味覚障害といっても、様々な症状があり、亜鉛欠乏症に多いのは、味覚減退(味が薄くなった、味を感じにくい)、味覚消失・無味症(全く味がしない)、異味症・錯味症(例えば、醤油が苦く感じるなど、本来とは違った味を感じる)、自発性異常味覚(口の中に何もないのに、苦みや渋みを感じる)といったものです。最近、味の感じが変だという方は、亜鉛欠乏症である可能性があります。
さらに、亜鉛が足りないと、食事中に少し噛んでしまったり、熱いもので火傷したりした小さな傷がすぐに修復されず、そのまま深くえぐれて「口内炎」になってしまいます。

食欲がない

味がわからないだけでなく、消化管の粘膜もしっかり作られなくなるため、食欲が落ちたり、下痢をしやすくなります。

皮膚炎・脱毛

亜鉛はタンパク質の合成を助けるため、肌や爪の健康に直結します。皮膚炎(湿疹が治りにくかったり、カサカサしたりする)・脱毛の他にも、爪が割れやすくなったり、かすり傷や切り傷の治りが遅くなることがあります。

関節が痛い

亜鉛は、骨や軟骨を作るタンパク質(コラーゲンなど)の合成に不可欠なミネラルです。亜鉛不足により軟骨の修復がスムーズにいかなくなり、負担がかかることがあります。

身長の伸びが悪い

成長期の子供の場合、身長が伸びないなどの「成長障害」が起こることがあります。また、大人では性ホルモンの働きに関わるため、不妊や性機能の低下につながることもあります。

貧血

亜鉛が不足すると、赤血球の膜が壊れやすくなったり、ヘモグロビンがうまく作られずに貧血になります。貧血で鉄剤を内服していても、なかなか改善しない場合は亜鉛欠乏症である可能性があります。

元気がない

亜鉛が不足すると心のバランスを保つ「神経伝達物質」がうまく作られなくなったり、脳のリズムが乱れたりして、以下のような精神症状が現れることがあります。
・気分の落ち込み(うつ状態)・意欲の低下
・イライラしやすくなる

また、脳の「海馬」という記憶をつかさどる部位には高濃度の亜鉛が存在しているので、その欠乏は
・物忘れが増える
・集中力が続かない
といった症状も呈してきます。
最近、物忘れがひどくなったのは、年のせいではなく亜鉛不足のせいかもしれません。
また、亜鉛は「免疫」にも影響し、ウイルスや細菌と戦う「免疫細胞」を活性化させる働きがあります。亜鉛が足りないと、免疫細胞が十分に働くことができなくなり、風邪などの感染症にかかりやすくなり、重症化しやすくなります。

上記の症状があっても、もう年だからといってあきらめないで下さい。採血をしてみたら亜鉛欠乏症だったということもあります。また、亜鉛欠乏症は、亜鉛を内服していると、時間がかかりますが、徐々に症状は改善していきます。あきらめる前に、亜鉛の採血をしてご自身が亜鉛欠乏症かどうか確認してみましょう。
「亜鉛の採血・血清亜鉛値」
様々な血液検査と一緒に血清亜鉛値の検査ができます。当院では検査結果は採血した日にわかります。
血清亜鉛値
80~130 ㎍/dL  が「正常値」
60~80 ㎍/dL   を「潜在性亜鉛欠乏症」 
60㎍/dL 未満   を「亜鉛欠乏症」 とそれぞれ言います。

血清亜鉛値が、80~130 ㎍/dLの正常値の方は、亜鉛欠乏症とは考えづらく、亜鉛補充の必要はなさそうです。60~80 ㎍/dLの潜在性亜鉛欠乏症の方は、上記の亜鉛欠乏症状が1つでもあれば、亜鉛補充を検討した方が良いと考えます。また、60㎍/dL 未満の亜鉛欠乏症の方は(多くは欠乏症状を伴っていますが)、たとえ欠乏症状が無くても、亜鉛補充を検討して良いです。

「亜鉛の補充」について

亜鉛の補充は、「食事療法」「サプリメント」「薬物療法」の三つがあります。

「食事療法」

亜鉛を多く含む食品(100gあたり)は,牡蠣(14.0mg),煮干し(7.2mg),ビーフジャーキー(8.8mg),豚レバー(6.9mg),パルメザンチーズ(7.3mg),ピュアココア(7.0mg),抹茶(6.3mg),カシューナッツ(5.4mg),いりごま(5.9mg)などです。
2025年12月11日に放送された「NHK 明日が変わるトリセツショー」の「その疲労&肌荒れ亜鉛不足かも!?」の回で、トリセツショーのホームページに「亜鉛取扱い説明書」のPDFがあり、亜鉛を豊富に含むレシピが掲載されており、ダウンロードが可能です。興味のある方は参考にしてください。
しかし、亜鉛欠乏症は,食事療法だけでは改善しない場合が多いことが、【指針】にも示されています。

「サプリメント」

現在、亜鉛のサプリメントは薬局で多くの種類が販売されています。採血や医師の処方箋は必要ありません。お手軽に亜鉛摂取が可能となります。しかし、自分の感覚で飲んだり、飲まなかったりということになり、亜鉛欠乏症の治療としては正確ではありません。また、サプリメントでメーカーが推奨している使用量は10~15mgで、下記薬物療法による投与量の10分の1程度と少ない量となります。健康を気にして飲むことは、問題ありませんが、亜鉛欠乏症の治療としては十分でないことが多いでしょう。

「亜鉛欠乏症の薬物療法」

前出の、亜鉛欠乏症状と血清亜鉛値から亜鉛欠乏症の診断基準を満たした場合、保険適応で亜鉛製剤の投与が可能です。亜鉛製剤としては、ヒスチジン亜鉛(ジンタス)、酢酸亜鉛(ノベルジン)、酢酸亜鉛錠「サワイ」(ノベルジンのオーソライズドジェネリック製剤)があります。当院で採用している亜鉛製剤はジンタスです。これは、2024年8月に発売された比較的新しいお薬で、1日1回の内服でよく、消化器症状などの副作用も少なく使用しやすい薬剤です。
亜鉛製剤の内服は少量(50mg)から始め、数カ月に1回程度の採血をしながら、血清亜鉛値の変化や亜鉛欠乏症の具合を見て投与量を変更します。亜鉛の内服で、血清亜鉛値はすぐに改善することが多いのですが、亜鉛欠乏症の症状は時間をかけて徐々に改善します。気長に内服するのがコツです。
亜鉛を適切に補充して、血清亜鉛値を維持することで、亜鉛欠乏症の改善以外に以下のようなメリットが【指針】で報告されています。

「小児科領域」

  1. 発達への良い影響。身長や体重を増加させ、運動や知能の発達に良い影響を与えます。また、イライラを抑え、心の安定や学習能力を改善します。
  2. 重い感染症から守ります。
  3. 亜鉛は免疫機能に深く関わっているため、重い感染症にかかる回数を減らしたり、かかっても経過を良くしたりする効果があります。
  4. 皮膚炎の改善や、傷・粘膜の治りを早め、下痢を抑えるといった効果もあります。

「内科領域」

多くの介入試験によって亜鉛補充の臨床的な意義が証明されています。
  1. 肝疾患: 肝性脳症の改善や、脂肪肝(MASLD)の炎症・酸化ストレスの抑制に有効です。
  2. 糖尿病: 血糖値や脂質のコントロールを助け、糖尿病性の下肢潰瘍の治癒を促進します。
  3. 感染症: 新型コロナウイルスの重症化抑制や、風邪の期間短縮に寄与します。
  4. 腎疾患: 透析患者の貧血治療の効果を高めるほか、味覚障害や皮膚の痒みを改善します。
  5. 炎症性腸疾患: 潰瘍性大腸炎の症状改善に有効です。

「外科的領域」

外科的領域において主に「創傷治癒」と「術後合併症の予防」の観点から非常に重視されています。術前に血清亜鉛値を測定し、必要に応じて低亜鉛血症の治療薬を補充するアプローチを始めている施設も出てきました。
  1. 創傷治癒の促進。組織の再生・コラーゲン合成。褥瘡の予防や改善に寄与します。
  2. 術後感染の抑制。手術部位感染や術後肺炎などのリスクを抑えます。
  3. 手術侵襲による酸化ストレスを軽減します。

血清亜鉛値を上手にコントロールすれば、亜鉛欠乏症状が改善するだけでなく、それ以外の健康状態の維持も期待ができるということです。是非、亜鉛採血をご検討ください。

コラム②について

健康情報番組について

一般社団法人 浜松市医師会が提供する朝のラジオ健康情報番組「おはようクリニック」にて、臨床検査科部長の平山一久医師が出演しました。人体における亜鉛の働きや亜鉛欠乏症などをわかりやすく解説しています。

おはようクリニック「亜鉛の話」

2025年12月12日放送
2025年12月19日放送
2025年12月26日放送

当院を受診されている皆様へ

  • 当院では、「亜鉛」の採血を院内で行っており、採血当日に結果がわかります。
  • 「亜鉛欠乏症」に対する専門の科は特にありません。色々な疾患や病態で「亜鉛欠乏」になりますので、気になる方は、まず、ご自分のかかりつけの科でご相談ください。
  • 亜鉛欠乏症の診断がついたら、亜鉛治療薬はどの科でも処方が可能です。
  • どこにかかったらわからない方は、「総合診療内科」を受診してご相談ください。


      今回のコラムは
      1. 脇野修, 児玉浩子, 原貴史 他, 亜鉛欠乏症の診療指針2024. 日本臨床栄養治療学会雑誌46 : 224-374, 2024 文中では【指針】と表示します
      2. Yokokawa H, Morita Y, Hamada I, et al. Demographic and clinical characteristics with patients with zinc deficienct: analysis of a nationwide Japanese medical claims database. Scientic Reports.2024; 14 2791 文中では【Yokokawa論文】と表示します
      3. 重篤副作用マニュアル 薬物性味覚障害 平成23年3月(令和4年2月改定)厚生労働省 文中では【副作用マニュアル】と表示します

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